男性と肩を並べて働いた先駆者の言葉の重み
炭鉱のカナリアは、危険をいち早く察して囀りをやめる。しかし「時代のカナリア」を自称する著者は声高く囀る。
ジャズ雑誌への投稿が認められジャズ評論家としてデビュー。ラジオDJ、作詞家としても頭角を現す。その輝かしいプロフィールに綴られてこなかったのは、男性ばかりの社会の壁を乗り越える葛藤。平和、健康、教育など多岐にわたる活動の一つ一つに込められた意味を繙く本書は、働く女性のロールモデルを体現する著者の生き方を浮き彫りにする。
終戦の日の翌日、母は青ざめた表情で9歳の著者に「自害」の方法を教えた。幼いながらもその切迫感を感じ取っていた。その前年に父は急死、長兄はフィリピンで戦死、次兄は戦地に赴いたまま、母と12歳年上の姉と女3人で残された戦後。戦争の愚かさ、非道さを知り、戦争は「絶対にダメ」と言い切る。
長兄が防空壕を掘りながら口笛で吹いたメロディが、後に著者を音楽の世界へと導いていく。その過程は実にドラマティック。
母から「女性の幸せは結婚」と言われても、著者は恩師の言葉「汝の車を星につなげ」=自分の希望を高く持つことを胸に刻み、女優として社会へ出ていく。
エルヴィス・プレスリーに会い、マイケル・ジャクソンと対話、ザ・ビートルズの単独インタビュー……。こうしたスターたちとの逸話はひとつひとつ際立って面白いが、その背景には男性たちに囲まれた世界があり、女性が何かを成し遂げることへの嫉妬や差別、偏見があったと知ると、著者の行動の意味が深まる。
今でこそジェンダー問題は普通に語られるが、先駆者がいたからこそ、道は切り開かれてきた。「90歳でもピンヒール」を履きたいというバイタリティにも勇気をもらった。「時代のカナリア」は高らかに囀ることで、誰にも声を上げる自由があると教えてくれる。