チャラチャラ男の役
その19のときに入った演劇学校で、現在、イッセーさんのマネージメントをつとめる真知子夫人と出会い、23歳で結婚する。
――この学校に行ったのも、美術大学受験に失敗して、さて何をやろうかというときに、役者になる、というのを無理やり引っ張り込んできただけなんです。
で、卒業公演は六本木の硝子屋の地下の自由劇場で『ボクシング悲歌(エレジー)』でした。田舎から出てきた子と、すごく真面目で暗い子と、何かチャラチャラしてる若造が、ボクシングジムで出会う、という話。え? 僕はもちろんチャラチャラ男の役。(笑)
大体、僕の人生は十年単位で区切られるんですよ。20歳くらいで役者になって、30歳くらいで日本テレビの『お笑いスター誕生!!』に出て少し世の中に知られて、40歳で海外公演とかいろんなとこの舞台に出て、50歳、酒やめて(笑)、60歳で長年の事務所から独立してフリーになった。これがあとで話すけど第二の転機ですよ。
海外公演はドイツが多かったですね。驚くのはお客さんのボルテージの高さ。舞台に何かを求めてる、っていうのが空気でわかるんですね。見逃すまい、聞きもらすまいとしていて、でも嫌だったら帰っちゃう。
日本だと、帰りたいけど、まぁ居るか、で、そのうち寝ちゃう。向こうでは、熱心に観るか帰るか、どっちか。それで一緒に笑って一緒に黙るってことがわりとなくて。一人がいつまでも笑ってたり、シーンとなっても誰かがまた反応したり。常に空気が動いてるんですね。ドーンとお客さんが、普通に居るんじゃなくて、特殊な空間として存在してる。やっぱり、自分が芝居していく相手はあの人たちなんだな、と思う。あそこに合わせなきゃいけない、っていうか……。
台詞はイヤホンで同時通訳です。一人芝居で演じたのは、一本目が腹の出た中年太りの演歌歌手。二本目が神経質そうなサラリーマン。出てきてパッと照明がつくと、ワーッとなってヤンヤの拍手が(笑)。あれは忘れられません。