「ずっと僕は白紙に何かを書き続けているんですね」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける俳優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第2回は俳優のイッセー尾形さんです(撮影:岡本隆史)

異空間がスッと立ち上がってきた

多面体のイッセーさんは、まず「自作自演」の「一人芝居」というジャンルを確立した俳優として名高い。

少年のころ、ハンドボールやサッカーに熱中し、美術教師を目指し、ギタリストになりたい、と思い、さまざまに揺れ動くが、それがすべて現在のイッセーさんの世界に活かされているのがすごい。

福岡県で生まれたイッセーさんは父親の転勤で、小学3年のときに東京・杉並区の小学校に転校した。

試験の答案用紙の裏に、読んだ本の感想文を書くようにと言われたのを聞き逃して、そのまま提出。先生から指名され、イッセー少年は慌てず『勧進帳』の弁慶のように、堂々と白紙を読む。まるで自作自演の一人芝居。

 

――ああ、思い出しました。転校してきて、早くみんなと仲良くなりたい、どうにかしてうまく潜り込みたい、と思ってね。半年ぐらい経っても「お前は何とかしとっと、とか博多弁で、何言ってるのかわからない」と言われてたんで。それで偉そうに白紙の感想文を読んだ。そうしたら後ろの席のやつが「あっ、白紙」って言ったけど、先生は聞かなかったことにしてくれて無事でした。

でも考えたら、一人芝居でお客さんの前に出るっていうのは、あれは自分が白紙状態ですからね。そこで何を書くか。ずっと僕は白紙に何かを書き続けているんですね。