一度経験した自然妊娠で救われた気がした

実際、私が《不妊治療》の四文字から初めて、本当に少しだけですが《解放》されたのは、治療を止めた46歳のときに初めて自然妊娠したからでした。しかも双子。なんの苦労もせず、こんなに簡単に妊娠できるものなのか。スムーズに妊娠週が進んでいくものなのか半信半疑になりながらも、心がグンと軽くなったのを憶えています。

(写真提供:写真AC)

これまで診てくれた医師の何人かに報告をしたら、全員が仰天していました。「そんなこと、あるはずがない」と少し怒ったような口調で返してきた若い医師もいました。結局、流産してしまいましたが、そのとき初めて、救われた気がしたものでした。私にも自然に妊娠できる能力が備わっていたのだ…と。

治療費に話を戻します。「ウチの夫はフツーのサラリーマンだから……、卵が採れても採れなくても、体外受精はあと3回だねと夫と話し合って決めている」と打ち明けてくれた年上の《不妊友達》について前回書かせていただきました。
幸いにも20代の頃から仕事に恵まれ、パートナーと同じ《財布》だったことがない私は、夫の了承を得ることなく治療にお金を使っていたので、正確には彼女の苦悩を理解していたわけではありません。

一方、自由になるお金を遣って毎月体外受精にチャレンジしていましたが、自分が優越感に浸るようなことは一度もありませんでした。それよりは、チャレンジすればするほど、精神的にすり減っていく自分がいました。大半のお医者様や病院は、分母=体外受精の回数=が大きくなれば、成功率=妊娠率や出産率=が上がるというお考えだったかと思いますが、本当にそうだったのでしょうか。

そして、できなかった人たち、それぞれの理由や、治療中やその後のメンタルケアについて記されている書物や記事を、私はほとんど知りません。