『老いを愛づる-生命誌からのメッセージ』(著:中村桂子/中公新書ラクレ)

戦争するのを賢いって言うのかしら

戦後十年が経過し、ラッセル=アインシュタイン宣言として哲学者や物理学者が核兵器廃絶、科学技術の平和利用を訴える宣言を出しました。平和の時代になってみれば、自分たちが率先して核兵器開発に関わったのは間違いであったと考えたのです。

戦争をしている最中には冷静な判断はできず、敵より先に兵器をつくることばかり考えてしまったことを強く反省しました。理性的な人たちのはずなのに、戦時には戦争に勝つためならと普段には考えない恐ろしい所業を平気でやるようになるということを、この例ははっきり示しています。

とんでもない人がとんでもないことをやるのではないことがわかりました。だからこそ止めなければなりません。

生きものの研究では、人間をヒト(ホモ・サピエンス)と呼びます。「サピエンス」って「賢い」という意味です。

戦争するのを賢いって言うのかしら。自分を賢いと名づけるんだったら、「本当の賢さ」を考えなければならないのにとよく思います。

でも核兵器開発のきっかけをつくってしまった学者たちは、反省をしました。反省だけならサルでもできるなどと言わずに、この反省を生かしていくのが私たちの役目であり、子どもたちに対する責任です。