「ケア」がますます重くなる世の中に

『ロング・アフタヌーン』は、フェミニズムや世の中の分断など、現代社会のテーマがたくさん盛り込まれた作品ですが、今後、葉真中さんがチャレンジしたいテーマなどはございますか

――いま、「8050問題」をテーマにした小説を執筆しています。引きこもりの 息子とその母親を軸にした物語で、これからの日本のシビアな側面に焦点を当てたいな、と思っています。私はかつて祖父の介護を経験したこともあり、介護や社会福祉をテーマにした小説『ロスト・ケア』でデビューしました。自身のなかで「ケア」(介護・介助する)は、ずっと取り組むべきテーマだと思っています。

日本ではこれから、団塊の世代がケアを受ける年代に突入しますし、少子化も進みます。これまでは一部の人だけが担っていた「ケア」は、誰もが直面せざるを得ない課題になってきています。社会の価値観も変わってくるでしょうから、これまで見過ごされてきた問題も認知されるようになるでしょう。

今後、ますます意義が大きくなる「ケア」について、作家としても向き合って生きたいと考えています。

<『ロング・アフタヌーン』あらすじ>

新央出版の編集者・葛城梨帆の元に突然、原稿が届く。それは以前、梨帆が所属する雑誌「小説新央」の新人賞で落選した志村多恵からのもので、50歳の専業主婦が主人公の小説だった。定年退職した夫の機嫌をうかがいながら過ごす日々に疲弊する多恵が、学生時代の女ともだちと時を経て再会するところから物語は始まっていた。立場の違う2人の会話はすれ違い、次第に女ともだちへの殺意が募っていく――。そんな登場人物の苦境に思いを馳せるうち、梨帆自身も忘れられない出来事と原稿内容がリンクし、多恵と梨帆、境遇の違う2人に共感がめばえ始める……。私たちのシスターフッドがここにある、著者渾身のミステリー。