『99年、ありのままに生きて』(著:瀬戸内寂聴/中央公論新社)

女の貞操が死語に

20世紀の日本での最大級の変化刷新といえば、女の貞操が死語になったことであろう。結婚は男女平等という思想が定着したと同時に、性に於ける要求も快楽も、男女平等であることが、女たちの心に定着した。

性の不一致あるいは不満のため、離婚を要求するなど、私の娘の頃はとんでもない恥しいこととされ、絶対口に出せなかったものだ。

それが当節では、最も納得のいく離婚の理由として成立しているし、恥をかくのは、女を性的に満足させられなかった男の方となってきた。

離婚する女が、子供を引き取るのも普通になったし、その子を育てる経済的力も女が備えてきた。

20世紀の最もすばらしい女の事跡と大変革は、男と同じ経済力自立をした女が、普通になってきたことである。

内助の妻という言葉しかなかった時代はやがて語り草になるだろう。

伊藤野枝における辻潤、高群逸枝における橋本憲三、岡本かの子における岡本一平のような内助の夫は、当時稀なる例だったから、私は彼等の夫婦のあり方を書いたし、それが共感を以て読まれたのであった。

今や、夫は妻のパンティも洗うし、子供のおしめも替えるし、台所に立つのは、むしろ恰好よき夫のスタイルとなってきた。

日につれ、世につれ、人間の習俗は、かくも変るのである。

これを一応革新と呼んでもいいだろう。なぜなら、それで妻は快適になり、夫もまた満足らしい表情をして、別に不満面をしているわけでもないからだ。