新しいことはいいことだ

こういう私の性格は、多分に性格がM的なのだそうだ。男は太古から狩をして獲物を追い需もとめたから、そういう流れ者の血が今も流れているので女はじっと家を守り、男の獲物を待つのが習性だという。そう教えてくれたのは、つい半年前亡くなられた会田雄次氏で、新幹線でたまたま一緒になった車中での話であった。

私はその時、

「でも私は、女っぽくて、甘えるのが好きで、男に尽しますよ」

と、女の中の女のようなふりをしたら、会田さんはすっきりした高い鼻でせせら笑って、

「それは、瀬戸内さんが、男に惚れた遊戯をしている時の演技です。演技もうまくなれば、真偽の区別が自分でもつけ難いものです」

と言い放った。私の惚れた男たちに、その真偽のほどを聞いてみたいところだが、77まで生きると、そういう関係の人々も、みんな一足先に彼岸に渡ってしまって、もう誰も居ない。

淋しいというより、すがすがしいのはどういうわけか。

さて、この新しい無垢の今年の暦を、どう塗りつぶしてやろうかと、私はわくわくして、期待に燃えている。

新しいことはいいことだ。

※本稿は、『99年、ありのままに生きて』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


99年、ありのままに生きて
(著:瀬戸内寂聴/中央公論新社)

<書籍概要> 大正・昭和・平成・令和 4つの時代をかけぬけて――「今、生きていてよかったと、つくづく思います」。デビューまもない36歳のエッセイから、99歳の最後の対談まで。人々に希望を与え続けた、瀬戸内寂聴さんの一生を辿る決定版。