気さくな人柄で、成績は優秀
そんな名取さんの学生時代のエピソードで、忘れられないものがあります。
すぐに主演女優として人気者になった彼女ですが、学内では、名取さん以上に華やかな同級生や先輩が大勢いたからか、彼女が特に目立っていることもなければ、それこそ「私、女優よ」といった態度をとったりすることも皆無。
服装もどちらかと言えば地味で、大学の近所にあった店のバーゲンで買ったイミテーションのファーを、手持ちのカーディガンの襟に自分で縫い付けて着るような人でした。
だから「名取(私たちは、苗字を呼び捨てにしていました)って、女優なんだから、もう少しオシャレにしたほうがいいんじゃないの?」「お願いだから、もうちょっと高いモノを着てきてほしい」と囁く同級生がいたほどです。
あるときは「NHKの人と打ち合わせで行った中華屋さんで余ったから包んでもらったの。美味しいよ、これ」と言って、大きな焼売を、学食でラーメンを食べていた私たちの丼に一つずつ入れてくれたこともありましたっけ。
それほど気さくな人柄だったのです。そして、成績は卒業するまで本当に優秀でした。
仕事で授業を休まざるを得ないことも多かったのに。そうそう、もう時効ですが、彼女の代返は私がしていました。教授陣もそれはお見通しでしたが、名取さんは授業に出られる日は、教授からの質問に名回答を連発。教授たちからも評価されていました。
冒頭に記した女優さん同様、名取さんも「裏方さんに可愛がられなければ……」と度々言っていました。
すごく覚えているのは、「太秦の撮影所ではね、野際陽子さんには、ノギワックス、岩下志麻さんにはシマックス、私にはナトリックスという照明の種類があるのよ」という話。
1974年、ナショナル(現・パナソニック)の「クイントリックス」と名付けられた新ブラウン管採用のテレビが50万台という大ヒットを記録しました。
その《クイントリックス》と各女優さんの名前を語呂合わせにして、ノギワックス、シマックス、ナトリックスと名付けられたのだと思います。