掘り起こされた父親の影響

春日 父親といえば、ぼくにとって父親の影というのは母親の強烈な存在感に対してずいぶん薄い印象があったんですが、今回、往復書簡を行っていたなかで、意外とエピソードがどんどん出てくるんでね。おやおや、って自分でびっくりしたということがありました。だから、往復書簡を始める前と後では自分の中での親父の濃度が違ってきました。意外と気が合う人だったんだなと思いましたけどね。

末井 お父さんとは直接関係ない話なんですけど、春日さんがお父さんの職場で見た資料写真について書かれていたところが妙に印象に残っています。檻みたいなところに子どもが入れられていて、そこに食事として供されていた海老フライがあったって話。檻と海老フライって……なんかすごいなと思ってね。(笑)

春日 親父が埼玉県所沢の保健所に勤めていた時代に遭遇した虐待ケースの資料写真ですね。そうした経験はまさに自分にとって「猟奇への窓」みたいなところがありましたね。非常に影響力が強かったんだなって思いました。

末井 春日さん、お父さんのそうした面を引き継いでいるようなところありますよね。(笑)

春日 次第に似てきたという感じです。昔は自分は母親に非常に近しい人間だと思っていたんだけれども、徐々に父親のほうに近づいてきたなと。

いまから考えると、父親は意外と話がうまい人でもありました。本もかなり読んでいたようで。親父の口から聴いた小説というのがけっこうあったりするんですよ。仁木悦子の『粘土の犬』とか、火野葦平の『怪談宋公館』とか。

末井 そうだったんですね。