エッセイストの末井昭さん(右)と精神科医で作家の春日武彦さん(左)(撮影:清水千恵子)
人との接触を極力避けた「新しい生活様式」を全世界が送らざるを得なくなった2020年。エッセイストの末井昭さんと精神科医で作家の春日武彦さんは、この年の秋から約1年にわたり往復書簡を行いました。その中心テーマとなったのが、コロナ禍の中でも両者の日常に寄り添う「猫」と、古希を迎えてもなお多大な影響を与え続ける「母」。これまでも著書の中で幾度となく取り上げてきた対象への旅に同行者を得て踏み出すという経験は、それぞれに何をもたらしたのでしょう。10信ずつ計20信の往復書簡をまとめた『猫コンプレックス母コンプレックス』(イースト・プレス)を上梓したお二人にうかがいました。〈構成◎立花律子(ポンプラボ)〉

往復書簡での「初体験」

末井 春日さんとは2019年7月に東京・荻窪にある本屋Titleで開催されたトークイベントでご一緒させていただいて。そこで初めてお会いしました。その前に書かれた本は読んでいたんですが、精神医学がテーマのものもキレイゴトだけでは決して終わらないんですよね(笑)。「え、こんなこと書いていいの?」と思ったりしながら読んでいました。

春日 『猫コンプレックス母コンプレックス』に収録された往復書簡がスタートしたのが2020年10月ですから……トークイベントはその1年3ヵ月前でしたか。

末井 そうですね。往復書簡を行っていた1年間は接触を避ける時期だったこともあって結局お会いしたのはその一度だけでしたが、往復書簡の企画の話が来たときはイベントでのにこやかな春日さんの顔が浮かんで、「春日さんとだったら」と思ったんです。

春日 あとがきにも書きましたが、ぼくはその少し前に「実在の人物に向けて文章を書き綴る」という自分にとっての冒険とも実験ともいえる試みについてつらつらと考えていまして。末井さんにお付き合いいただいて往復書簡というかたちで自分の夢想が現実となったことはうれしかったです。読者の方にも楽しんでいただけるといいのですけれど。