青春小説の金字塔『横道世之介』シリーズ。世之介と同じようなスランプに著者の吉田さんも陥ったことがあるそうでーー。(写真提供:新潮社)
大学進学のため上京してきたお人好しな青年の1年間を描いた吉田修一さんの小説『横道世之介』。累計部数30万部を超え、2013年には高良健吾さん、吉高由里子さんらの出演で映画化されるなど、多くのファンを抱える青春小説の金字塔です。その続篇となる『おかえり横道世之介』(2019年刊行の単行本『続 横道世之介』を改題の上、文庫化)が22年5月に刊行され、24歳になった主人公・世之介の1年間を描いた本作の発表は読者を大いに驚かせました。『おかえり横道世之介』はどのようにして生まれたのでしょうか? 世之介と同じく吉田さんが経験した「人生のスランプ期」とは? 著者の吉田さんに話を聞きました。

著者である私自身、ふと世之介に会いたくなることが

――『おかえり横道世之介』の執筆のきっかけを教えてください。

7年ほど前、中央公論新社で「小説BOC」という文芸誌を創刊するということで、連載を依頼されたことがはじまりでした。

最初はまったく別のものを書くつもりだったのですが、連載を引き受けたあとで当時の担当編集者から、「小説BOC」では私の連載とは別に、大がかりな目玉企画が用意されていることを聞いたんです。

話題性だけで言ったらどうやったって負けてしまいます。それで少しテンションが下がってしまったのですが、「誰だったら一緒に負けてくれるかな」と思ったときに、ふっと横道世之介のことが頭に浮かんだんです。それで、続篇を書いてみることにしました。

――当時のことに関しては深くお詫びいたします……。

今となっては書いてよかったですから(笑)。

でも、理由はそれだけではないんです。現在、毎日新聞でシリーズ完結篇「永遠と横道世之介」を連載しているのですが、著者である私自身、ふと世之介に会いたくなることがあると気付きました。

どういうタイミングかはうまく言えないのですが、例えば『悪人』や『怒り』のような重い題材を扱った大作を書いた後であったり、最近だとコロナで人に会えなくなったことであったり、自分の中で何か揺らいでいることがある時のように思います。

執筆を通して1年ぐらい世之介と向き合うと、「自分はこのままでいいんだな」と思えたり、逆に「これじゃダメなんだな」と気付くこともできるんです。