その先を摘み取ってしまった未来を、小説にしている

――世之介にはモデルがいたり、または吉田さんの経験を元にしているところはあるのでしょうか?

モデルはいないのですが、実際に自分の近くで起きたことをエピソードとして使っています。世之介が経験していることは、私もおおよそ経験していると言えますね。

ただ、ひとつのエピソードの出発点が私の経験といっしょでも、着地点が違っています。

例えば『横道世之介』に登場する倉持一平のような人が、大学1年生の頃、自分にもいたんです。皆さんの周りにもいませんでしたか? 大学に入ったのに、来年もっと偏差値の高い大学に入り直すためにもう1回受験勉強をすると言っている人。

この発言だけは強烈に覚えているのですが、私はその人と仲良くなっていない(笑)。でも、このときに私が一歩踏み込んでいたら、世之介と倉持のように親友になっていたかもしれないですよね。

実はまだ続きがあったはずなのだけど、なぜかその先を摘み取ってしまった未来を、小説にしているのだと思います。

「実はまだ続きがあったはずなのだけど、なぜかその先を摘み取ってしまった未来を、小説にしているのだと思います。」(写真提供:Photo AC)

――吉田さん自身は20代の頃、どのような生活をしていましたか?

ひどい生活だったと思いますよ。私も世之介と同じで、大学を出てからは就職していませんでした。

『おかえり横道世之介』での世之介は就活に乗り遅れていましたが、私はそもそも就活をしていなかったので、むしろ世之介の方が偉いです。割の良いバイトを2、3ヶ月続けて1ヶ月休んだり、ぐうたらしていました。

家は当時友人と一緒に借りていました。今で言うルームシェアなんて言葉はなかったので、大の大人が一緒に住むことは、世間的に白い目で見られるところもありました。

とにかく20代前半の頃はこのままでいいはずがないと感じながらも、時代もよかったので、常に自分の周りが賑やかで楽しかったんです。バイトでも遊びでも、日々の忙しさにかまけてあっという間に1年が終わっていく、ということを繰り返していました。

『おかえり~』の中であるような「人生のスランプ」とまでは思っていませんでしたが、今振り返ると何をやっていたんだろうと思います。