しかし、ここでひるんでいられない。以前から私がご飯を作っていた日もあったのに、それを忘れられるのは寂しい。
「前から、私と一緒の時は、みそ汁を飲んでいたじゃない」
余計なことを言ったかなと後悔しいている私に、父は絶妙な間を取った後、しれっと言う。
「そうだったかな……昔のことは忘れた」
私は義妹と顔を見合わせた。
「いいね! 私たちも、物忘れが激しくなったら、この手を使おうね」
65歳以上の高齢者のうち、5人に1人は認知症だという。父に起きていることは、もうすぐ66歳の私にも起きる可能性があることばかりだ。父から学んだ都合の良い言い訳を口にする日が、私にも間もなくやってくるに違いない。