イメージ(写真提供:Photo AC)

「あら? 保湿クリームも買ったの?」
「あ、そうだった。アフターシェーブローションを買おうと思って出かけたんだった。売っていなかったけど」

それで、なぜ肉まん? 訳がわからない。テーブルの上には、割と高い保湿クリームの小瓶がのっている。

父の話を総合すると、若い女性店員さんは、「アフターシェーブローション」という物を知らなかった。父は「ひげを剃った後に、保湿のためにつける、化粧水のようなものです」と説明したという。

それで勧められたのが、このクリームだった。仕方なく会計に並ぶと、レジの横に肉まんがあったので、急に食べたくなったらしい。

「俺は、資生堂のブラバスのアフターシェーブローションが欲しいんだ。今度買ってきてくれないか?」
「うん、わかったよ。ドラッグストアに行ってみるけど、なかったらほかのものでもいい?」
「昔からブラバスを使っていたから、ほかならいらない」

はたと思い当たった。翌日は週に1度のデイケアサービスの日そこは割と大きい施設で、特に女性がたくさん来ているそうだ。

父が自損事故で車を失った後、初めて徒歩で買い物に行った。
一人歩きは危険だからやめてほしいと思う気持ちと裏腹に、父が人の目を意識して、身だしなみに気を遣うようになったのが、少しうれしかった。