ひじきに好きなだけ食べさせてやりたいのに、そうできないのは義妹のせいだといわんばかりの表現だ。ひじきに好かれたい一心で言う父は、子どものように素直で、私は義妹と一緒に笑ってその様子を見ている。父は怪訝な顔をしていたが、どうやら妙案を思いついたらしい。

「牛乳をやっていいか?」
「ちょっとだけなら」

義妹の許可が出ると、父は台所に行き、冷蔵庫から牛乳を取り出して「どの位だ?」と聞く。

「1センチ位にしてください」

父は、言われた通りの量を、慎重にボールに入れた。底まできれいに舐めたひじきは、満足げな表情で父の膝の上に乗ってくる。すると父は、ひじきを撫でながら言う。

「お前の母さん厳しいから、少ししかやれない。かわいそうだな」

つい数ヵ月前まで、私は認知症の傾向が出てきた父の扱いがわからず、しょっちゅう喧嘩をしていた。しかし、自損事故で急に父の症状が進んだのをきっかけに、こうして他の家族の手を借りられる気持ちになり、生活も変わってきた。

そして今、ひじきという「助っ人」ならぬ、「助犬」によるアニマルセラピー効果が表れた。これまで見たことがないほど、父の顔つきは優しくなった。