恐れていた郵便
父に届いた郵便は、そのまま渡すことにしている。税金、健康保険等の通知は、私の目の前で開封してもらい、手続きが必要な書類だったら、代理で私が処理をする。父もそのやり方に、異論はないようだ。しかし、父に渡すべきかどうか悩む、1枚のハガキが届いた。
表面には「認知機能検査及び高齢者講習のお知らせ」とあり、差出人は「北海道公安員会 北海道警察本部」だ。裏面には、高齢者講習制度のあらましが書かれていた。ハガキの下の隅を剥がすと、中にはより詳細な案内がある。
運転免許証更新の6ヵ月前から講習を受けられると明記されていて、夏に誕生日を迎える父は、もういつでも申し込めるらしい。ご丁寧に「急いでこのハガキに書いてある自動車学校等に予約しましょう」とも書かれていた。
たぶん、父はまだ車を運転したいと思っている。その気持ちを刺激するのは嫌だ。かといって、父には郵便物を受け取る権利がある。しばらく悩んだ末に私は平静を装い、夕刊と一緒にハガキを渡した。父は何も言わずに受け取って、ハガキを机の上に置いた。
それから1ヵ月余り、ハガキはそのまま同じ場所にある。買い物や病院は私が連れて行っているし、ようやく運転免許に執着がなくなったのだろう。父が高齢者講習を申し込む気配がないことに安堵していた。
春休みを利用して、私の長男が子どもを連れて帰省した。孫を連れてプールに行くことになっていた私は、父の昼ご飯を長男に託して出かけていた。久しぶりにプールで泳ぎ、上機嫌でロッカーに戻ってスマホを見ると、長男と義妹からの不在着信がたくさんあった。私は慌てて、長男からのLINEを読んだ。
「おじいちゃんが、高齢者講習に向かおうとしている。黙って予約していたらしい」
オーマイ・ダッド! みんなで寄り添って支えようとしているのに、家族の心配する気持ちがパパにはわからないの! 私は怒りで頭にカーッと血が上ってしまった。
(つづく)
◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました