市毛さんは筋トレ目的で始めたため、人に見せたり発表会に出たりする気はなく、6年がかりで「スタンダードのワルツをひと通り踊れる」というところまで習得したところで、達成感もありやめようかと思っていた時期も。そんな当時のことを振り、思いを述べています。

そんな時、お友だちのデモ(発表会)を見に行ったら、きれいな衣装を着てステージで踊っている姿がレッスンの時とはぜんぜん違っていて、見とれました。どうせやめるなら、先生へのお礼のつもりで記念に1回だけデモに出てもいいかなと思い、そう伝えたら、先生も張りきられて。

練習を重ねて発表会に出たつもりなのに、自分の演技に「なぜ、あそこはできなかった?」「なるほど、そうだったのか」と気づきがあり、やればやるほどダンスの奥の深さを発見するんです。

年末年始など撮影がない時に、毎日レッスンを入れて集中的に行うことで、成長を実感。コロナ以降はレッスンを休み、体感キープのために、自宅でひとりラテンの自主練に努めます。

「いつもとは違う世界に行ける、というのはワクワクするんです」(写真提供:市毛さん)

上記の筋トレや気分転換の他に、市毛さんが感じるダンスの魅力とは。

私は「人に見せる気はない」と言いつつ、ダンスでなければできないおしゃれは大好き。私より少し年上の人たちは、若い頃にダンスブームがあって、私もその雰囲気を見て知っている世代。映画の中でのダンスシーンを素敵だと思ったし、おしゃれしてお酒を飲みに行って、ちょっとダンスして帰ろうか、みたいなことも理解できていました。今、この年齢になって、そういう世界を文化として楽しむのはいいなあと思っています。クルーズ船のダンスタイムとか。

山関係の集まりだと、みんな登山ウェアです(笑)。それはそれでいいとして、今は何もかもカジュアルになりがちなだけに、いつもとは違う世界に行ける、というのはワクワクするんです。

日常ではなかなか味わえない、ときめきを感じられることも、社交ダンスならではの魅力。一つ何かを始めると、別の趣味を持つ友達ができて、さらにそこから新しい趣味へ‥‥‥と、数珠つなぎになり、新しい扉を開け続けている市毛さん。さらに、ダンスで少しでも体を動かすことで、介護で疲れていたとき、気持ちに余裕が持てるようになったとのこと。

うちの母は13年間の介護ののち、4年前に100歳で亡くなったんですが、さっきもお話ししたように、介護の日々のなかで、私、うつ状態になったんですね。「あなたを心地よくさせるために、私はこんなに大変なのよ」「あなたのせいで私の人生は」と、つい恨みがましくなるし、それが口に出ることも。でも、わずか25分のダンスレッスンでも、体を動かして気分が晴れると、デイサービスから帰ってきた母に優しくできたんです。

ダンスがなかったら介護を続けられていなかったかもしれない、と思うほど支えられました。

80代の先輩方が楽しそうに踊っていることを受け、そこまではいきたいと話していた市毛さんは、現在71歳。女優としての活躍はもちろん、多彩な活動にも注目が集まります。