日本のバレエ学習人口が減る中、50代以上の生徒は増え続けているという(写真提供:タカオカ邦彦)
いまクラシックバレエを踊る50~70代の女性が急増していることをご存じだろうか。2022年に小山久美氏(昭和音楽大学バレエ研究所所長)、海野敏氏(東洋大学社会学部教授)が発表した「日本のバレエ教育環境の実態分析」によると、少子化や長引くコロナ禍の影響からか、16年からの5年間で日本のバレエ学習人口は10万人以上減り、約25.6万人と落ち込んでいる。そのなかで、目立って増え続けているのが50代以上の生徒なのだ。バレエに魅了されるのはなぜか、彼女たちの声を聞いた

脚は丈夫に、姿勢もよくなって

趣味は仕事、と公言してきた私だが、人生後半に差し掛かって始めたバレエに、すっかりハマっている。目覚めるとすぐに腹筋、かかとを上げ下げしながら歯磨き、料理をするときもつま先立ち、ポーズをとりながらお茶を出す……といった具合で、仕事以外はバレエ一色の生活。レッスン仲間の多くも、私と同様に40代や50代ではじめてバレエに挑戦した人が多い。

自営業の森山陽子さん(仮名・73歳)は20年前、「何考えてんの、その年で」と母親に言われながらバレエを始めた。脳腫瘍を患っていた夫を10年介護した末に亡くし、そのあとぽっかり空いた時間を埋めてくれたのがバレエだったという。

「いつまでも落ち込んでいるわけにもいかないし、自分のケアでもしようと、近所にあるマッサージ店に行ったんです。そしたら、同年代のマッサージ師がバレエを習っていて『体にとてもいいわよ』って」

森山さんの脚にできた静脈瘤を見たマッサージ師は、「ふくらはぎは第二の心臓だから、つま先立ちをしたりするバレエがいいのでは」と勧めてくれた。まずは近所のカルチャーセンターでバレエに触れ、慣れてからは自分に合う先生を求めて、スタジオを替えながら続けている。

「最初は思うように動けなくて、必死にバーにしがみついていました。でも音楽は素敵だし、続けるうちに仲間もできたら、すっかり楽しくなって。つま先立ちで脚は丈夫になり、姿勢もよくなって、70代でも若々しい体を保てている感じがします」

少女漫画がきっかけでバレエに興味を持ったと話すのは、パートタイマーとして働く池本祥子さん(仮名・63歳)だ。ポーズが気に入り、舞台を観に行くうちに、自分でも体を動かしてみたいと思うようになったという。

「公民館のバレエ講座に通ってみたら、猫背が直ってきたんです。年齢とともに背中が曲がっていく同世代の人を見ていると、まっすぐな姿勢でいられるのはバレエの効果かな、と。体力もついたし、レッスンで振り付けを覚えるせいか、仕事の段取りもよくなって。昔より動けている感じがします」と笑う。