念願の大きな波が、私の前にようやく現れてくれた

『Big Wave』は、アメリカのサーファーを主人公にした同名映画のサントラだが、孤高のサーファーの心情を歌ったテーマ曲では「孤独は自分の居場所であり、潮に漂いながらも、やがて訪れるであろう大きな波に乗ってやる」という意味の歌詞が歌われている。

私はそのフレーズを、ローマ市内の古代遺跡をさまよい歩きながら、呪文のように胸の奥で口ずさんでいた。私にとっての大海原はイタリアという未知の国であり、『Big Wave』は、絵描きの道を選んだ自分に満足している未来を意味していた。

あれから38年。この6月に11年ぶりのリリースとなる山下達郎さんの新譜のジャケットに、私が描いた彼の肖像画が使われることになった。

山下家とはご縁があって懇意にしているが、ご本人から肖像画を描いてほしいというリクエストがあったのは数年前のことだ。「あなたはそもそも漫画家である以前に画家なんだから」と励まされつつ、フィレンツェでの学生時代以来、何十年かぶりに描いた肖像画だ。

すべての表現に対して鋭い審美眼で接する山下達郎という職人に納得してもらうこともさることながら、かつて絵描きになろうと漠然とした不安を抱えながらローマの遺跡をさまよう私を支えてくれた感謝も、この肖像画には込めたつもりだ。

食べていくために絵筆を漫画用のペンに持ち替えたりもしたが、どうやら絵画を描く喜びと誇りという念願の大きな波が、私の前にようやく現れてくれたようだ。