舞台50年を迎えた淳子さん(前・中央)と、息子・和秀くん

プロの狂言師になる為の登竜門

令和4(2022)年5月17日午後7時、『和泉淳子舞台50年齢・十世三宅藤九郎継承35年記念祝賀 第32回和泉姉妹の会〜和泉慶子「三番叟」披キ・和泉采明「千歳」披キ〜』公演の開演だ。

千駄ヶ谷にある国立能楽堂は、親しい方々も集まっていただき祝賀ムードに包まれた。

一転、橋掛かりの奥五色の幕が上がると、清々しい空色の直垂(ひたたれ)に侍烏帽子(さむらいえぼし)をつけた千歳(和泉采明)が登場する。摺足の運び一足一足が、「三番叟」という演目の厳かな緊張感を纏っている。

そして後ろから、装束は定めの鶴亀に松が施された褐色(かちんいろ)の直垂に、三番叟に限って用いられる剣先(けんさき)烏帽子を身につけた三番叟(和泉慶子)が緊張した面持ちで、けれども強い真っ直ぐの眼差しで登場。張り詰めた空気感。それまで味わった事のない緊張と闘っているに違いない。

この剣先烏帽子は、将棋の駒形をしており、魔を払う意味がある。手に持つ中啓(先の広がった扇)にも松に鶴亀が表裏同様に描かれている。

「三番叟」と言う演目は、どこかで見たり聞いたりされた事がおありだろうか。新年の初会や記念すべき公演によく演じられる、狂言の世界で最高の格式を持つ演目である。

天下泰平を祈念し、足拍子を踏み鳴らして邪気を払い、地を踏み固める「揉の段」と、鈴を振り、種蒔き・種下ろしを表し、五穀豊穣を願う「鈴の段」からなる。
鈴の段での鈴は12鈴あり、黒式尉という面を付ける。後世のあらゆる芸能に影響を与えた曲としても知られている。