和泉流においては、プロの狂言師になる為の登竜門ともされており、この「三番叟」と「奈須與市語(なすのよいちのかたり)」を披(ひら)き、成人することで「大人」の「プロ狂言師」になることが出来る。

「大人のプロとは何じゃいな」とお思いになるかも知れないが、ここには少しばかりのこだわりがある。和泉流宗家の家に生まれると、その道はとても早くから始まり、3歳の初舞台に向けて稽古は1歳半くらいから始まる。

采明ちゃんが赤ちゃんの頃、抱っこする節子おばあちゃんは満面の笑み

はじめは、足袋を履くこと、扇を持つこと、そしてご挨拶のお稽古だ。稽古の始めには、「よろしくお願い致します」終わりには「どうもありがとうございました」。
あたり前と言えばそうなのだが、まだ言葉を覚え始めて間もない子どもにとっては、かなりのハードルである。「狂言は礼に始まり礼に終わる」と言われ、私も子どもの頃からスパルタだった父、故十九世宗家和泉元秀に厳しく教えられた。

3歳の初舞台は「靭猿(うつぼざる)」の子猿の役と決められており、皆その役で初舞台を踏んでからは、立つのはプロの舞台である。その日以降、基本的に毎日稽古をつけてもらい、子方の役を演じていく。稽古方法は室町時代から変わらず口伝(くでん)という、師匠の言う通りやる通りを真似し、繰り返して覚えていく。文字で書かれた教本は一切使用しない。

そして、小学校高学年からは大人の役を勤めるようになる。子どもだから出来なくても良いとか、大目に見てもらえる事は全く無く、プロとして責任を持って舞台に立つのだ。その期間は「子方のプロ」時代である。同じプロの道ではあるが、成人する事で一つの節目を迎え、またさらに険しい道を歩んでいく。