「こいつなんか違うよな」

その頃って小学生の男子たちのあいだでJリーグがめちゃくちゃ流行ってたんですよ。僕が引っ越したのは四年生の時だったので、1993年になります。ちょうど91年にJリーグが設立されて、93年に開幕してるんですよね。

『いま君のいる場所だけが、世界のすべてじゃない』(著:副島淳/潮出版社)

ほとんど全員がヴェルディ川崎のファンで、キング・カズとかラモスとか、あの頃といえば黄金期でしたから。

葛飾の小学校でも、全員というわけじゃないんですけど、結構多くの友達がヴェルディのキャップを持ってたんですよ。

僕も欲しかったんですけど、スポーツ店に行ってもどこもヴェルディのキャップだけが売り切れていました。それくらい人気があったんです。

ただ、転校するにあたって、初登校の時にどうしてもヴェルディのキャップを被って行きたかったんです。それがあるだけで、すぐに友達ができるんじゃないかと思ってたんですよね。

それで母親にお願いして、引っ越してすぐに市役所へ転入の手続きをしに行った日に、近隣のスポーツ店を一緒にまわってもらったんです。だけど、やっぱりどこのお店も売り切れで、見つかりませんでした。

確か全部で3軒か4軒まわったのかな。ヴェルディのキャップだけじゃなくて、他のチームのキャップもなかったんですけど、最後のお店にサンフレッチェ広島のキャップがあったんです。紫むらさきのユニフォームを着てるクマのマスコットが描いてあるやつです。

まあ、なにもないよりかはいいかと思って、それを買ってもらいました。で、そのキャップの側面に、家にあったヴェルディの缶バッジを付けて、それを被って学校に行ったんです。

結果的には、それが失敗だったんですよ。クラスの中心的な子から「なんでお前、サンフレッチェの帽子にヴェルディの缶バッジなの? こいつなんか違うよな」みたいなことを言われて。