エビはめでたい食材の代表格(イラスト:市川洋介)

「老」とはめでたい存在のことを言う

「老」という漢字は、老人が杖をついている姿に由来する象形文字である。しかし、「老」という漢字には、けっして劣っていたり、弱い存在であるという意味合いはない。

「老」というのは、知識や経験に優れた人という意味である。

たとえば、中国語では、学校の先生を「老師」と言う。老師は年老いた先生というだけではない。新任の若い先生も「老師」である。「老」は、尊敬すべき人を意味する言葉なのである。

そういえば、江戸幕府には「老中」や「大老」という役職があった。これらの役職は、けっして、年功序列の老人がなったわけではない。たとえば、幕末の動乱期に水野忠邦の後を受けて老中となった阿部正弘は、二十五歳だった。

つまり、「老」は「老人のように優れている」という意味であり、「老人のように尊敬される存在」という意味なのだ。幕府の老中は、「年寄」とも言った。年寄は「年月を重ねる」という意味がある。

そういえば、相撲でも引退した力士は、年寄となる。年寄りも「年月を重ねた優れた存在」という意味なのだ。

「老」はめでたい存在である。だからこそ、エビはめでたいのだ。

 

※本稿は、『生き物が老いるということ――死と長寿の進化論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


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どうして人間以外の生き物は若返ろうとしないのだろう?
イネにとって老いはまさに米を実らせる、もっとも輝きを持つステージである。人間はどうして実りに目をむけず、いつまでも青々としていようとするのか。実は老いは生物が進化の歴史の中で磨いてきた戦略なのだ。次世代へと命をつなぎながら、私たちの体は老いていくのである。人類はけっして強い生物ではないが、助け合い、そして年寄りの知恵を活かすことによって「長生き」を手に入れたのだ。老化という最強戦略の秘密に迫る。
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