ドウケツエビは、幼生のうちにカイロウドウケツの中に入るため、成長した後は出られない(イラスト:市川洋介)

死ぬまでカイロウドウケツの中で暮らすドウケツエビ

ドウケツエビは、幼生のうちにカイロウドウケツのかごの目の中に入ってくる。しかし、そのかごの目の中で暮らしているうちに、ドウケツエビは大きく成長し、カイロウドウケツの中に閉じ込められてしまうのだ。

もっとも、カイロウドウケツの中は快適だから、わざわざ危険な外に出る必要はない。そのため、カイロウドウケツから出られなくても、まったく問題はないのだ。

ただし、たった一匹では子孫を残すことができない。そのため、ドウケツエビは、雌雄がペアになってカイロウドウケツの中で暮らしている。まさに死ぬまで共に暮らす「偕老同穴」なのだ。

もともとは、このエビが「偕老同穴」と呼ばれていたが、いつしか海綿動物のほうがカイロウドウケツと呼ばれ、エビはドウケツエビと呼ばれるようになった。

 

※本稿は、『生き物が老いるということ――死と長寿の進化論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


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