避けられぬものと、いかに向き合って生きていくか

人は大病をすると「人生とは何か」について考え始めたり、人生観や死生観が変わったりするとよくいわれます。

僕も、障害が残るような大病をして人生観は変わりましたかと質問されることがありますが、何も変わっていません。入院中に「人生とは何か」などとは考えもしませんでしたし、病気によってこれまでの人生観に影響を受けることもありませんでした。

目標としていた復職を遂げた出口さん(写真提供:(C)講談社)

人間は動物なので、病気になって回復しなければ死ぬのが自然です。誰にでも必ずやってくる未来を心配しても仕方がありません。

もともと僕は古希の70歳を超えたときから、後は神様次第だと心底思っていました。その考えはいまも変わりません。

人間は常に病気や老化、死と向き合って生きています。不幸と呼ぶべきか、宿命と呼ぶべきか、これらの避けられぬものと、いかに向き合って生きていくか。このことが人間の数千年の歴史において、常に人間の眼前にありました。

哲学や宗教は、人間が生きていくための知恵を探し出すことから出発したといえなくもありません。生きていくための知恵は、不幸といかに向き合っていくかの知恵ともいえます。