やはり「人生は楽しまなければ損」が基本

近年、「神は死んだ」と断言したニーチェの哲学に関する本が、世界的に人気を集めているといわれています。

ニーチェは、歴史は永劫回帰している、と考えました。人間はさほど賢くなく、同じ過ちを繰り返してきた。進歩はしていない。歴史は直線的に進歩するのではなく、永劫に回帰する円環の時間なのである、という考え方です。

これは仏教の輪廻転生の思想と同じです。ヘーゲルやマルクスが、歴史は理想的な方向に進化していくと考えたのとは大きく異なります。時間も歴史も進歩しない、そのような運命を正面から受け止めてがんばっていく人間。この強い人間をニーチェは「超人」と呼びました。

ニーチェは人間が強く生きていこうとしたとき、何を一番大切な理念としているのかといえば、それは力への意志であると考えました。強くありたい、立派でありたい、そのように生きたいと目指すことです。ニーチェの「超人思想」は、あくまでも、人間はこの大地で現実の生そのものに忠実となり、運命を受け入れて、強い意志を持ち生きていくことが重要だと説いているのです。

ニーチェの「超人の思想」は、ヘレニズム時代のストア派の哲学とどこか似ています。

ストア派はヘレニズム時代の4大学派の一つとされる哲学で、徳を追求した結果として得られる、「パトス」に動揺しない「アパテイア」に至ることが幸福だと考えます。パトスとは激情や情熱、情念、アパテイアとはパトスに動揺しない心を指します。

ストア派はアパテイアそのものを追求してもその境地にはたどり着けない。人生の徳を実践することで、結果的に得られるのだと考えたのです。ストア派が考える人生の徳とは知恵、勇気、正義、節制であり、それらを実践して心の平静を得て、幸福になる。

ローマの身分ある家柄に生まれた人々は、ストア派の考えに積極的に取り組みました。その代表的な人物がローマ皇帝のマルクス・アウレリウスでした。彼が書いた『自省録』には、その心情がつづられています。

僕は個人的には、ずっとストア派の考え方に憧れてきました。ただ、病気に対峙する心持ちとしては、やはり「人生は楽しまなければ損」が基本です。それはリハビリに取り組む姿勢にも関わっていきます。

※本稿は、『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。


復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』(著:出口治明/講談社現代新書)

脳卒中を発症してから1年半。歩くことも話すことも困難な状況から、持ち前の楽観主義で落ち込むことがなく元気にリハビリ生活を送った出口さん。知的好奇心は衰えるどころか増すばかり。学長復職を目指す、講演を行う、再び本を執筆することを掲げ、自分を信じ闘病に励む稀有な姿勢と超人の思想は、私たちに生きる勇気を与えてくれる。本書には類書にない希望が満ち溢れている!