治ったように見えたのは一瞬

いつもは苦手なMRIもあまりのショックにいったいこれからどうなるんだろうと思っているうちに終わった。

するとどうしたことか突然、左手も左足も元通り動き出したのである。

「ひとまず良かったけどこれからまた悪くなることもあるので様子を見ましょう」と言われ、もう動けるのに帰れないのかとがっかりした。

後で調べたらこれは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる症状で、ここから脳梗塞になることも多いらしいのだが、私はとりあえず回復したのだから2、3日もすれば家に帰れるだろうと呑気なことを思っていた。

点滴の管をたくさんつけられてガラガラと音を鳴らしながらトイレばかり行っていたのだが、その翌日の夜からだんだん動けなくなって来た。つまり治ったように見えたのは一瞬のことで、結局は救急車で運ばれた当初の状態に戻ってしまったのである。

「土曜日の夜やゴールデンウィークに救急車で運ばれる人は運が悪い、ウィークデーの昼間のほうがちゃんとした医者がいるから」と聞いたことあるなあ、もしかして私は運が悪いのかと天井を見ながら考えた。

時々目にするスマホのニュースなどでは、「選挙速報」やら「小室圭さんが試験に落ちた」やら流れて来ていて、元気ならいろいろ思うところはあったはずだが、とにかく今の私はそれどころじゃない、すべてはひとりでトイレに行けるようになってからの問題である。

多目的トイレも実は右麻痺用と左麻痺用があり、手すりの位置が逆だと不便なことを初めて知った。つまらん不倫の話題を流すならワイドショーはこういうことも周知させてくれ、と思った。