そもそも走るのはとてもしんどいこと
思えばワコールでも、監督から「人に勝つより自分に勝て」と言われていました。
スポーツですから競うことが楽しいときもあるけど、私は見た目のわりに気持ちが弱いので、競うことだけを考えると体がガチガチになっちゃう。自分に対して挑んでいるところに、たまたま競技相手がいるだけ、と考えるようになってからは、ますます陸上が面白くなっていきました。
そもそも走るのはとてもしんどいことなんですよ。スピードは大事だけど、楽しく走らないと。その方法のひとつとして、私は笑顔で走ることが多かったと思います。その様子が不真面目に見えると批判されたりもしたけど、苦しいときは笑顔を作ると、気持ちがラクになりますね。やっぱり笑って走れたら、人間最高じゃないですか。
マラソンを始めたのは、10000mの記録が伸び悩んでいたからです。2004年のアテネのあと、10000mで日本選手権6連覇を達成したものの、思うようなタイムが出ない。長距離選手にはよくあることですが、そのころ「マラソンに挑戦しないんですか」と聞かれることが増えていました。
2時間以上走るなんて、そんな時間があったら絶対映画を観るほうがいいですよ(笑)。でもトラックで思うような結果が出ない私の目に、マラソンは簡単そうに映りました。「話題性もあるし、周りの期待にも応えられるし、それじゃあ一発明るくやっちゃおうかな」と。完全にマラソンを舐めていたんですね。
初めて42.195kmを走ったのが、08年大阪国際女子マラソンの本番でした。それまで走った最長距離は30kmで、その先は未知の世界。快調に走っていたものの、30kmを過ぎたあたりから急に体が重くなり、順位が落ち、残り2kmで足がもつれ始めました。
あのシーンを覚えている陸上ファンの方は多いかもしれませんが、ゴール手前で転倒です。起き上がりたいけど起き上がれない。体がいうことをきかず、立ち上がってはまた転び、生まれたての小鹿みたいにヨロヨロしながらのゴール。レース後、調整不足だとものすごく叩かれたし、このレースがトラウマみたいになってしまった家族やチームの仲間もいました。