以前より自分のことが好きになりました

私にとってのオリンピックは、出場前の故障などが重なり、苦い記憶が多い大会です。北京もロンドンも5000mと10000mでの出場だったので、初のマラソン参加は16年。34歳でのリオデジャネイロ大会でした。

その年の1月に大阪国際女子マラソンを2時間22分16秒で優勝して決めた代表入り。ただこのときはほかの大会の結果も待たなければならなかったのに、優勝インタビューで「リオ決定だべ」と思わず言ってしまい、物議を醸したこともありました。

自分ではいいことを言ったつもりなのに、思わぬ方向に話が発展したり、おかしな発言をする選手と捉えられたりすることは多かったかもしれません。でもそのたびに、会社や周りの人や夫が守ってくれるありがたさは、ずっと感じていました。

特に5年前に結婚した夫は、テレビディレクターとして05年から私をドキュメンタリー番組で追い続けてきた人。私の発言の真意を汲み取ってくれるのはもちろん、ずっと背中を押してくれて、本当にありがたい存在です。

陸上は道具を使わないスポーツです。すべては自分の体とシューズにかかっている。悪い結果が出ても道具のせいにできず、自分と向き合うことを余儀なくされます。日々、自分自身を見つめ、自分にできることに挑戦して、自分を開拓していく、とでも言うのかな。

そのおかげで、40にして自分がどういう人間かわかり始めたところがありますし、以前より自分のことが好きになりました。

壁にぶち当たったとき、よく「壁を越えろ」と言う人がいるじゃないですか。でも無理して高い壁をよじ登らなくても、その場で「おりゃー」とぶち壊せばいい。いまの私はそう思います。

それにも疲れたら、ノックして向こう側にいる人と協力したり、壁にドアを作ったりするとかね。そういうふうに視点を変えながら楽しく走れるコツを、これからは後進に伝えていきたいと思っています。