そんなふうに思えるようになったきっかけのひとつは、僕自身のルーツを振り返ってみたことでした。『人間』の終盤には、永山が自分の両親に会うために沖縄へ向かう場面が出てきますが、永山と家族とのやり取りは、ほぼ自分自身の経験です。

僕の両親は、すごく楽しそうなんですよ。子どもの頃から、僕はおとんみたいに素直になられへん、おかんみたいに人に優しくできひんと思っていました。父親は酔っ払って警察のお世話になるようなアホなところもあるけれど、それも人間らしくていいなーと思うんです。

僕はちょっと屈折しているから、それを生かしたいと思って上京して東京で芸人になって、小説を書いたりもしている。表現欲求に駆られ、書きたいから書いているんですけど、当然さまざまな批評に触れて、常に自分が審査されているという感覚があります。自分を奮い立たせて頑張っているところもある。

でも、僕が頑張って、頑張って、今の生き方を突き詰めていった先に、両親はいないんです。僕が尊敬する、他人の評価なんか気にしないありのままの両親のような存在に、僕は永遠にたどり着かない。だったら、そこまでして頑張らなくても、好きなことを好きなようにやればいいんじゃないかと、肩の力が抜けました。

 

ピースとしての活動は現在 「どフリー」

30代のうちにやっておきたいと思っていたことは、後悔はない程度にはやってきたと思います。もっとちゃんと歯医者に通いたかったとか、車の免許を取れるものなら取りたかったとか、そんな小さなやり残しはありますが。あと、本来だったら結婚していたはずやったのにな、とも思いますね。過去おつきあいした人はいましたが、うまくいかなくて。

ともあれ、お笑いのほうは、去年も一昨年もコントライブを開催できましたし、自分のライブも毎月継続してきました。

相方の綾部(祐二さん)がニューヨークに行っていて、ピースとしての活動は現在 “どフリー”なので、自分で何をするかを考えて行動しなくてはならないんですが、実はそれが僕は苦手で。以前は、全部綾部に決めてもらっていたんです。

小説も、あいつに「本が好きなら自分で書いたほうがいいんじゃない」と勧められ、「そのうちやるわー」と言ってから7~8年経って始めましたし。僕の仕事もマネージャーと綾部が相談して、「あれはやったほうがいい」とか。ケツを叩かれないとダメなんで。だから、綾部が帰ってきたら考えることが少なくなるので楽かなと思ったりもするけど、何よりアメリカに行ってまでやりたいこと、好きなことがあるのはいいな、と思っているので応援したいです。

僕は仕事のペースが早いほうではないですが、自分なりにやっていきたいと思っています。40歳になる今年は、節目の年。小説では、これまでの3冊とはまったく違う、僕の人生とは隣接する部分のないような、めちゃくちゃなフィクションを書こうと決めています。