本は何も言わず、人に寄り添ってくれる

「これはメルカリで売れるかも」と従妹が引っ張り出したのが、歌手としてデビューした頃の石原裕次郎の写真集。親がジャズ喫茶をやっていたので雑誌や新聞もたくさん取っていましたし、話題の本もすぐに買って回し読みするような家でした。

私の部屋には沢野ひとしさんのポスターがまだ貼ってあったように、椎名誠さんの「怪しい探検隊」シリーズは家族みんな大好きで、探検隊ごっこをして遊んだことも記憶に残っています。

特に祖母と私は不思議と趣味が合って、私が「面白かったよ!」という本は必ず読んでくれました。京都の大学へ進学してからも、仕事を始めて好きなだけ本を買えるようになってからも、私は読んだ本をちょくちょく祖母に送っていました。祖母の部屋の本棚には、私の送ったぶ厚いノンフィクションや村上春樹の長篇小説が、大切に読んだことがわかるように並べられていました。

私たち家族にはその後いろいろなことが起こり、自分以外はみんな死んでしまいました。そして誰も住まなくなった家に、この本たちはずっとあったんだなと思うと、すごく悲しかったし、切なかった。

本は何も言わず、人に寄り添ってくれる存在です。悩みをときほぐす糸口になり、落ち込んだときも大笑いさせてくれ、ほろりと共感させてくれる。

国内外いろいろな場面で社会が大きく動き、落ち着いて本を読もうという気持ちになかなかなれないかもしれません。それでも少し時が経ち、「何か読んでみようかな」と思ったとき、この本がきっかけになったら嬉しいなと、思っています。