わがままになったのか、本来の性格か

夕食の食材を調達するため買い物で出かける時は、父もついてくる。後部座席に座るように言っているのに、父は必ず助手席に座る。
そして毎回、ブレーキが遅いだの発進のタイミングが悪いだの私の運転にケチをつける。

親子の車内バトルスタートだ。

「人の運転に干渉しないで! 文句を言うなら、買い物に連れて行かないからね!」

父が元気な時は、それぞれ自分の車を運転するので、お互いにどんな運転をするのか知らなかった。父のようなせっかちな人が、昨年まで無事故で運転していたのは奇跡だ。神様に感謝しなければならないと、心から思う。父に言いたいことは山程あるが、私は我慢して運転に専念するしかない。

片道三車線の広い道路の真ん中の車線を走行中に、信号が黄色になった。早めにブレーキを踏んで止まった私に、父は吐き捨てるように言った。

「おまえのような下手な運転をするやつがいると、車の流れが悪くなって、後続車に迷惑をかける」
「事故を起こすよりマシでしょ」

ずっとこのようなやり取りが車内で続くので、スーパーに着く頃には、私はへとへとになっている。どういうわけか知らないが、車を駐車場に停めると父は普段の温厚な年寄りに戻り、私のご機嫌を取ってくる。

「買い物はやめて、どこかに食べに行かないか?」

前日買い物に来たときも同じやり取りがあり、車の中で話し合った結果、買い物は中止して、車で移動してラーメンを食べに行った。2日も続けて外食するのは私は気が進まない。

「いや、遠慮するわ。買い物してご飯を作るよ。この店は新鮮な魚があるから、今日は焼き魚にするつもり」

「焼き魚か……俺はレストランでハンバーグを食べたい」

私は驚いて父の顔を見た。94歳になるというのに、ラーメンを食べた翌日にハンバーグを食べようと言う。スーパーに行く途中「びっくりドンキー」の看板が目に入り、買い物はどうでもよくなったらしい。恐るべき食欲と体力だ。私は65歳だが、こってりな外食が2日も続くと胃が悲鳴を上げそうで絶対に無理だ。

「パパは、子どもが好きなメニューばかり食べたいんだね」

私は嫌味で言ったつもりだったが、父はニコニコして答えた。

「そうだな。年を取ったら、子どもの頃に食べていたものを食べたくなるっていうからな。舌がその味を求めるんだ」

父は「ああ言えばこう言う」で、絶対に負けたくないので言い返してくる。でも私は、冷静にちゃんと言い返した。 

「パパは昭和3年生まれだよね。子どもの頃、ラーメンやハンバーグ、そんなに食べていないでしょ?」
「そうだったかな。いや、あったような気もする」

これは認知症の症状なのか、取り繕いか、ただとぼけているのか。
私は言い合いに疲れ、またもや買い物は中止し、父の希望の「びっくりドンキー」に行くことになった。200gのハンバーグを残さず食べる健啖ぶりに驚くばかり…。

父との付き合いに戸惑うことはますます増えていきそうだ。