ひとつの時代を築いた様式美の終焉

このシーンのバンドマンといえば、メイク同様に浮世離れした派手な長髪がシンボルであったし、それがミステリアスな雰囲気を醸し出す大きな役割を果たしていた。

しかしこの時期、RYUICHI をはじめ、櫻井敦司(BUCK-TICK)、YOSHIKI(X JAPAN)、hyde(L’Arc〜en〜Ciel)といった面々が次々と自慢の長髪をバッサリと切ってしまった。TUSK(ZI:KILL)は坊主頭になり、メイクも落とした。

それは当人たちの「もうビジュアル面での奇抜さは必要ない」という決意もあっただろう。しかしそれよりも、広まりつつあったヴィジュアル系という言葉、ムーブメントに対する反抗のように思えたのだ。

シーンでみれば、ひとつの時代を築いた様式美の終焉だと感じた。しかし、時はまだヴィジュアル系ブーム前夜である。にもかかわらず、既に先人たちは「まだ長髪でメイクしてるの?」といった域に入っていたのである。

※本稿は、『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社新書)の一部を再編集したものです。


知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(著:冬将軍/星海社新書)

ヴィジュアル系とは音楽ジャンルを指す言葉ではない! 日本のロックシーンは「ヴィジュアル系」を軸に発展してきた、と言い切ってしまっても大袈裟ではない。本書では90年代にヴィジュアル系がどう誕生して、多くの人になぜ受け入れられ、なぜ世界がうらやむほどの「ジャパンカルチャー」となったのか、その独自の発展をバンドの世界に留まらず、ファッション、漫画などさまざまな分野を通して辿っていく。さあ、その深淵の闇へ、共に堕ちていこう!