日本の空港における水際対策

それでもなお私の懸念に納得できない夫は、私がマンションのほかの住人にしっかり事情を説明すればいいなどと反論し、教員である自分はこの時期しか夏休みがとれないのだからと譲りません。

『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

「僕たちは家族なんだから、周辺の人が何を思うかなんて関係ない。僕はとにかく家族への誠心誠意を見せるために、日本へ行くよ」

そう言って、ベッピは有無を言わさず日本にやって来たのです。入国後の7日間をホテルで隔離されたのち、夫には私の家の近くのマンスリーマンションに滞在してもらうようにしました。

オリンピック開催時、「選手や関係者から感染拡大はしていません」といった見解が出ていましたが、私は「怪しいものだ」と訝(いぶか)しんでいました。

なぜなら、隔離期間中こそ保健所から日に3回の電話がかかってきて、同じ場所に留まっているかなどの行動確認がなされていましたが、夫から聞いた限りでは、当時の日本の空港における水際対策はあってないようなものだと思うほど緩いものだったからです。