頼家が上皇とやりとりするための“奥の手”だった

もう一度くり返しますと、天皇(上皇)に命令を出してもらおうとしたら、きっちりと手順を踏む必要があり、具体的には弁官か蔵人に書類を提出しないといけない。そしてもちろん武家である頼家には、そんな伝手などないのです。

じゃあ、どうにもならないか。奥の手がありました。それは身分に関係なく上皇の側に近づける人に頼むこと。

うまくいけば、上皇が願いに興味をもってくれるかもしれません(逆にいうと、上皇に「つまらん」と無視されたら、そこであえなく終了となりますが)。

身分は低いけれど、上皇に近づける人。それが芸能に関わる人々だったのですね。

たとえば歌と踊りをもっぱらにする白拍子。芸達者で美しい遊女。それに猿楽の演者。

だからドラマ内の頼家は、一縷の望みをかけ、猿楽の人々に上皇への願いを託したのです。

けれどその願いを託した扇は八田知家(市原隼人さん)に見つかり、謀反の証拠として義時らに頼家を討つことを決意させることに。しかも修善寺にやってきた猿楽衆の中には義時の命を受け、頼家を殺しに来た善児(梶原善さん)が……。

こうして、“奥の手”がかえって頼家の命を縮めることになったのでした。頼家にとっては、皮肉な結果であった、としか言えません。