本能寺の変の急報に接し、急ぎ京都へ向かう豊臣秀吉。(『少年日本武将合戦物語』著:菊池寛/実業之日本社。国立国会図書館データベース
2017年、「クフ王のピラミッド」の内部構造を素粒子ミューオンによって画像観測したというニュースが話題になりましたが、進歩した科学技術は、いまや考古学の分野にまでおよんでいます。一方、従来の歴史学では、科学や物理に明らかに反しているにもかかわらず、「結論」や「通説」としてまかり通っているものが少なからずあると話すのが三井造船で船の設計にかかわり、東海大学海洋工学部で非常勤講師を務めた播田安弘さんです。特に播田さんにとって、1582年の「本能寺の変」の直後、驚異的なスピードで豊臣秀吉が京都へ戻った、いわゆる「中国大返し」については思うところが多いそうで――。

京都までどのようにして引き返すか

ここで、6月3日の夜に戻り、備中高松で本能寺の変の急報に接した秀吉の立場になって、私たちなら京都までどのようにして引き返すかを考えてみましょう。

具体的には、陸路か海路かの二者択一です。黒田官兵衛のような頼れる軍師はいませんが、そのかわりとして、意思決定を客観的に行いたいときによく用いられる「AHP」(階層分析法)という方法を使ってみます。

AHPとは、Analytic Hierarchy Processの頭文字で、ある選択をする際に評価基準が2つ以上あるときに、どの選択肢を選ぶべきかを計算によって導く意思決定法です。1970年代にピッツバーグ大学のサーティ教授が創始したもので、数学と心理学がベースになっています。

たとえば、あなたが新しいスーツを買おうとしているときに、価格は高いけれど品質はすぐれている製品と、価格は安いけれど品質はあまりよくない製品という2つの選択肢があるとします。

このときどちらを選ぶかは、画一的に品質と価格のどちらを優先するかだけではなく、それぞれをどの程度重視するかも加味しないと判断が難しいものです。なぜなら、どのくらいの価格までなら払えるか、品質がどのくらいまでなら我慢できるか、といった「重み」の判断も必要になるからです。