親に介護が必要となると、家庭生活は一変します。ことに子育て中の世帯では、介護に時間と気持ちを割かれ、子どもに向き合えないというジレンマが──。親にも子どもにも心を砕かねばならない日々は、どのようなものなのでしょうか。3人の経験者に、その苦難とどう対峙し、切り抜けたか語ってもらいました。(取材・文=武香織)

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◆「ダメな嫁と思われたくない」プライドが裏目に

紗織さん(仮名・49歳・パート)が結婚以来同居してきた義母(74歳)の異変に気づいたのは5年前。

「若くして夫と死別し、働きながら2人の子どもを育てたしっかり者の義母に、『物忘れ』が多くなったのです。それに加えてある日、義母は家にあった食品を食べ散らかし、私に向かっていきなり、『私も食べたかったのに、あなたが全部食べちゃったのね!?』と怒り出しました。そしてすぐさま義妹へ電話、『最近、嫁が冷たい。今日も食事をくれなくて……』と愚痴り始めたんです」

義妹は沙織さんと同じ年で仲がいい。「お母さん、おかしいね。私が母を説得するから、一緒に病院へ連れていこう」と、促してくれた。医師の診断は、認知症。その夜、夫(50歳)と義妹と3人で、義母を今後どうするか話し合った。夫と義妹は施設への入所を提案したが、沙織さんは、「デイサービスを利用しながら、基本的に私がみる」と宣言した。

「義妹以外の親戚は昔気質で、『姑の面倒は嫁がみるもの』みたいな雰囲気があって……。『ダメな嫁』と思われたくないというプライドからでした。当時、中学1年生と小学2年生の娘には、翌日、『おばあちゃん、おかしな行動をしてしまう病気なの。みんなで見守っていこう』と説明。しつけの厳しいおばあちゃんを嫌っていた長女は、『私は何も手伝わないから』ときっぱり。次女は『病気なんて、かわいそう。お手伝いする』と温かい言葉をくれました」

義母の症状は日に日に悪化、とくに徘徊は日常茶飯事に。制止すると暴れるため、沙織さんが後をついて回り、迷惑をかけた人に頭を下げるしかなかった。「いい加減にして!」と、義母に声を荒らげたこともある。すると決まって次女が、「病気なんだから、しょうがないでしょ?」とたしなめてきたとか。

そんな優しい次女が拗ねたことが、1度だけあった。

「次女の授業参観当日、義母をデイサービスに送り出して、慌てて教室へ滑り込んだのです。そして気づいた次女に小さく手を振ったら、無視された。自宅へ戻ってから『ご機嫌斜めだったね。どうしたの?』と尋ねると、『お化粧くらいちゃんとしてきてほしかった……』って」

そういえば、食事も、一品料理中心の手抜きになっていた。義母はといえば、手づかみで食べてしまうこともたびたび……。

「綺麗好きな長女は、『おばあちゃんと一緒にご飯を食べると、気持ち悪くなる』と、自分の部屋で食事をするようになりました。次女も、『私も、お姉ちゃんと一緒がいい!』って。食事のときが、親子でいろいろ語り合える大事な時間だったのに……。それに長女は、ストレス性の胃腸炎に罹り、登校もままならなくなった。毎日、『かまってあげられなくてごめんね』『こんなテレビ番組を見たよ』など、短い手紙を渡しました。返事はゼロ。それでも、『あなたも大事だよ』という気持ちを示したかった」