消化器外科医・温泉療法専門医であり、海外も含め200カ所以上の温泉を巡ってきた著者が勧める、温泉の世界。安心して、どっぷりと浸かってみてください。
※本記事は『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』
(佐々木政一、中央新書ラクレ)の解説を再構成しています

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日本各地に残るツルによる温泉発見の由来や伝説

歴史ある温泉の多くには、開湯にまつわる発見伝説が存在する。温泉を見付けたのは鳥獣や高僧、武将、日本神話の神など多種多様で、中には複数のエピソードを持つ温泉も。

その中で最も多いのは鳥獣によるもので、「傷を癒しているところを目撃したり、鳥が飛び立った跡に温泉が湧いていた」という発見由来が多い。動物には本能的に水浴びをする習性があり、自然に湧出した温泉が傷に良いことを知っていて、人間はそれらの姿を見て、温泉は普通の水とは異なっていることを教えられたのである。

このような開湯伝説が存在するのは、身近な野生の鳥獣を登場させることにより、その治癒効果を強調し、温泉の効能を世の人々に知らしめる効率的な宣伝方法であったからだと考えられる。また、発見伝説には白い動物が目を引く。これは、
「白い動物はまれな存在で、薬師如来の化身とされ、温泉に対する敬意と感謝を込めた温泉信仰と深いつながりがうかがえる」と温泉評論家の石川理夫は指摘する。

真偽のほどはさておき、日本各地に残る鳥獣による温泉発見の由来や伝説を紹介しよう。
 

ツルによる温泉発見伝説とは?

●鶴の湯温泉(北海道勇払郡安平町)

明治4年、フモンケの原野(現在の安平町)に放牧馬を監視にきた牧夫が、しばしば病んだツルが沢地に舞い降りて、冷泉で浴して元気に飛び立っていくのを見た。

この話を聞いた井上利三郎がけがをした人や家畜をこの泉に浴させたところ、疾病はたちまち治り、神のごとき効能があったので、これが霊泉であることを知った。

ツルに教えられたことから「ツルの温泉」と名付けられ、この効能が広く道内に知れわたり、「ツルの温泉」が「鶴の湯温泉」と呼ばれるようになった。