プレゼンテーションや会議、商談といったビジネスの場はもちろん、日々の生活のなかでも、有人や家族など、自分以外の誰かに動いてもらわなければならない場面が多々あります。でも、相手を“思うように”動かすのはなかなか大変……。歴史家・作家の加来耕三さんは「その方法を教えてくれるのが、歴史上の偉人たち」と語っています。たとえば、特に“天才軍師”とも呼ばれる黒田官兵衛からは学ぶものが多いそうで――。
官兵衛はどのようにして、人々から信用を勝ち得たのか
戦国武将・黒田官兵衛については、稀代の策略家とか陰謀家といったイメージを抱いている人が、今なお多いようです。おそらく、豊臣秀吉の軍師として、さまざまな調略を成功させてきたことから、そうした印象がつきまとっているのでしょう。
しかし、考えてみてほしいのですが、世間から、「あいつは信用できない。いつも人を欺(あざむ)いてばかりいる」という評判が立っている人物の話を、人はそもそもまともに、聞こうとするものでしょうか。騙されるとわかっていながら、引っかかるような物好きは、今の世にも戦国の世にもいませんでした。
筆者は、後世になって定着したイメージとは正反対に、官兵衛はあの時代において、誰よりも誠実で正直者だったと考えています。しかも、状況を的確に分析して、最適な答えを見つけ出す能力にも長けていました。だから、
「官兵衛の言うことであれば、信じよう」と、「調略」にあたった多くの人々の、心を動かし得たのではないでしょうか。
官兵衛が携わってきた「調略」とは、敵方の人間を説得し、味方に誘い入れるものです。そういう意味では、この活動は交渉の一種であると言えます。
交渉を成功させるには、さまざまな手練手管(てれんくだ)を使う必要があります。しかし、身も蓋(ふた)もない言い方になりますが、そもそも相手から信用されていないと、どんな手練手管も効果を発揮することはできません。
では、官兵衛はどのようにして、人々から信用を勝ち得たのか。
以下で、見ていくことにしましょう。