戦死した夫の墓に花束を手向ける、イリーナ・ボンダレエバさん(右)と娘(撮影:坂本卓)

戦争がなければ命は失われなかった

ロシア軍のウクライナ侵攻から半年が経とうとしていた。

イリーナ・ボンダレエバさん(40歳)は、7月末、軍の将校だった夫を亡くした。ミコライウでの任務中、ロシア軍のミサイルの直撃を受け、他の兵士とともに戦死した。

私はイリーナさんと、大学生になる娘とともに、オデーサ郊外の墓地を訪れた。広大な敷地のなかに、青と黄のウクライナ国旗が並ぶ一角があった。殉職した軍人の墓で、侵攻後に亡くなった兵士たちが埋葬されている。墓標に記された戦死日には最近のものもあった。彼女は、墓前に赤い花束を手向け、墓に添えられた夫の遺影にそっとキスをした。

イリーナさんは、涙を浮かべながら言った。

「私たちは負けません。ウクライナに、きっと夜明けが来ると信じています」

そして、力いっぱい私を抱きしめた。彼女の体は、ずっと震えていた。

たくさんの兵士の墓標。この戦争がなければ、失われることのなかったいくつもの命。ロシア軍の兵士にも家族がいて、深い悲しみに暮れているはずだ。この不条理な侵攻で、どれほどの血が流れたことだろう。

戦争は、人びとの人生や希望を断ち切ってしまう。たとえ争いが止んでも、互いの不信感をぬぐうのは容易ではない。国際社会がこの戦争を止められぬなか、人びとの命が失われ続けている。