理想的生き方の信念を覆す人間は叩かれ、排除される

表向きは民主主義を装っていながら、屈強な社会主義国的不自由さを強いられるその傾向は、実はもう顕れているようにも思う。

「あらゆる生は不確実であり、絶えず予測しなかったことに出会うもの」

これは私が敬うフランスの哲学者エドガール・モランの言葉だが、こんな当たり前のことにすら、今の時代を生きる私たちは気がつくことができなくなっている。

仕事や家族に疲れても、生き延びるモチベーション維持のため、社会からはさかんに正しく美しく楽しい人生というのを推される。

そして、そんな理想的生き方の信念を覆すような行動を取る人間がいれば徹底的に叩かれ、排除される顛末はメディアの中でも日々繰り返されている。

とあるテーマパークのキャラクターの着ぐるみに「中に入っているとお暑いでしょう?」と問いかけたら、「中に人はいません」とお付きの係員にぴしゃりと言われたことがあった。夢を壊すなということなのだろう。

もしもそんなやりとりがテーマパークの外でも横行するような日が来てしまったら、私はどこかのジャングルでターザンにでもなろうと思う。

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