理想的生き方の信念を覆す人間は叩かれ、排除される

表向きは民主主義を装っていながら、屈強な社会主義国的不自由さを強いられるその傾向は、実はもう顕れているようにも思う。

「あらゆる生は不確実であり、絶えず予測しなかったことに出会うもの」

これは私が敬うフランスの哲学者エドガール・モランの言葉だが、こんな当たり前のことにすら、今の時代を生きる私たちは気がつくことができなくなっている。

仕事や家族に疲れても、生き延びるモチベーション維持のため、社会からはさかんに正しく美しく楽しい人生というのを推される。

そして、そんな理想的生き方の信念を覆すような行動を取る人間がいれば徹底的に叩かれ、排除される顛末はメディアの中でも日々繰り返されている。

とあるテーマパークのキャラクターの着ぐるみに「中に入っているとお暑いでしょう?」と問いかけたら、「中に人はいません」とお付きの係員にぴしゃりと言われたことがあった。夢を壊すなということなのだろう。

もしもそんなやりとりがテーマパークの外でも横行するような日が来てしまったら、私はどこかのジャングルでターザンにでもなろうと思う。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!