新聞の人生相談コーナーを担当しているマリさん。寄せられた悩みを読みながら「社会が作り出した理想や妄想に縛られて生きている」人の多さにあらためて驚かされることがあるそうで――。(文・写真=ヤマザキマリ)

私の人生をかたちづくるもの

自分が担当している某新聞社の人生相談に寄せられる悩みの多くは、「こんなはずじゃないのに、どうしてこうなった」という内容がほとんどだ。

悩みというのは現状を受け入れることのできない不満によって生まれてくるものだが、それにしても人間というのはここまで律儀に、社会が作り出した理想や妄想に縛られて生きているのか、と驚くことがある。

「やりたいことをやって、自由奔放に生きているあんたなんかにわかるものか」などと反感を煽りそうだが、断言させていただくと、私の55年の人生はおよそ自分の思い入れや目的とはまったく関係のない経験によってできている。

14歳での欧州ひとり旅も、17歳でのイタリア留学も、貧乏尽くし画学生暮らしも、妊娠も出産も彼氏との別離も、その後の結婚も、漫画家となり作品がヒットしたことも、ひとつたりとも自分が望んだり、憧れたりした結果ではない。