父は音楽家の坂本龍一さん、母はシンガーソングライターの矢野顕子さんという音楽一家に育ち、自身も音楽活動や執筆、演劇など多方面で活躍している坂本美雨さん。東京新聞で2016年から連載されていた子育てエッセイに、大幅な書き下ろしを加えた書籍『ただ、一緒に生きている』が刊行されました。書き下ろしエッセイで子育てへのより深い思いを書くうち、自分の幼少期を振り返る必要性を感じたそうで――(構成:山田真理 撮影:前 康輔)
温かくて、愛ある景色
今年7歳になる娘が誕生してしばらくした頃、新聞にエッセイの連載をすることになりました。その7年分の記録を1冊にまとめたのが本書です。その過程は、自分の子ども時代や、両親(編集部注・父は音楽家の坂本龍一さん、母はシンガーソングライターの矢野顕子さん)とのかかわりを見つめなおす時間でもありました。
私は日記も三日坊主なので、月1回の連載というペースはちょうどよかった(笑)。無理なく子育ての記録を残しておける良い機会と思い、大事に書き綴っていきました。
ただ、幼児期って、1日単位で変化していくので、月1だと「何々ができるようになりました」といった物理的な成長は、とても追いきれない。それよりも、その時どきで一番心に残ったこと、忘れたくない瞬間をちゃんと見つめて文章にしたい。そう考えながら、毎回の原稿を書きました。
たとえば、娘が4歳の時、歯医者さんでもらった風船の糸が切れて空に飛んでいってしまったことがありました。娘は最初、「またもらえるし」と何でもないふりをしたけれど、「ちゃんと持ってたのにね」と声をかけると、私の体に顔をうずめて「きれいだったのにー!」と泣き出したのです。
自分のせいだから我慢しなきゃと思ったり、「大したことない」と虚勢を張ってみたり、でも本当はすごく悲しかったんですよね。
子どもって、感情をすべて素直に出すと思っていたのに、こんなにいくつもの思いがからみあって表に出るのかという驚きと、いじらしさ。その時は私も一緒になって大泣きしてしまって、娘に「もう大丈夫だって~」となぐさめられてしまいました。(笑)