清水 でも、そのような捉え方をする必要はまったくありません。大きな手術を乗り越えて、失声したにもかかわらず、リハビリを頑張った結果、ここまで話せるようになっている。そのことをむしろ誇りに思ってもいいくらいです。まったく恥ずべきことではありません。私だったら「よく頑張っておられますね」と心から思います。
堀 ありがとうございます。
清水 「あなたの話し方は……」と言う人がいるかもしれません。私はそういう人は無知なんだと思います。人間はいつ何時、何が起きるかわからないというのが真実です。自分もいずれいろんな人に助けてもらうことがあるだろうということを理解していれば、困っている人を見たら何か手助けしようと思いこそすれ、冷淡な気持ちを持つことはありません。
自分はずっと健康で、病気とは無縁の世界に生きていると思い込んでいる人ほど、障がいを持つことは人ごとだから冷淡な態度を取ってしまいがち。そんな無知な人の言葉に惑わされる必要はないし、「恥ずかしい」と思う必要もまったくないんです。
堀 そうですね。そう言われると少し力が湧いてきます。そういえば、子どもたちは私がこんな話し方になっても、「お母さんはお母さんであることに変わりないわけだから、これからも一緒に美味しいものをたくさん食べようね。だから、いつもにこにこしていてね」と言ってくれます。私自身も「ああ、あんなときもあったなあ」と今のことをいつか思い出したとき、笑えたらなと思います。
清水先生のおっしゃるように人間の命はいつまでもあるものではありません。だからこそ、些末なことからは目を背けて、毎日をいかに楽しむかを考えたいですね。
※本稿は、『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)の一部を再編集したものです。
『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)
『絶望の底に沈んでも、いつかきっと立ち上がれる。』ステージ4の舌がんと宣告を受け、舌の6割以上を切除する大手術を受けた堀ちえみ。医療チームのおかげで一命はとりとめたものの、歌手・女優として大事な言葉に障がいが残ってしまい、一時は絶望に沈む。しかし、家族や多くの人々の励ましに支えられ、徐々に気持ちは新しい目標へと向かっていく。絶望から希望へ、その心の軌跡を、がん専門の精神科医・清水研が読み解く。不安や悩みを抱え、苦しんでいるすべての人に。