「一番心に引っかかっていたのは《恥ずかしいという気持ち》だったのです。前とは違う、今の自分をさらけ出すのが怖かったのです。」(撮影:鈴木慶子/写真提供:ビジネス社)
2019年1月にステージ4の舌がんと宣告を受け、舌の6割以上を切除する大手術を受けたタレントで歌手の堀ちえみさん。一命はとりとめたものの、言葉に障がいが残ってしまい、一時は絶望に沈んでいたと言います。しかし、家族や多くの人々の励ましに支えられ、リハビリに励み、2020年1月より仕事に復帰しています。
がん専門の精神科医・清水研先生との対談という形で、その体験を振り返る堀さん。リハビリ中、次女とカラオケに行ったことをきっかけに、「歌いたい」という気持ちが膨らんできたと話します。ボイストレーニングをセッティングするという夫の後押しもあり、自分の気持ちが目標への前向きな気持ちに変化していくにつれ、家族にも変化が表れ――。

次女のひと言で気づきを得てメデイアへ復帰

清水 ご家族みんなが堀さんの仕事復帰を望まれていたんですね。

 だと思います。本当に助けられています。

清水 堀さんの場合、テレビのバラエティ番組やドラマなどに出演することが仕事復帰となるのだと思うのですが、ボイストレーナーの指導のもと、歌のレッスンを行いながら、いつメディアに復帰しようと決めていたのでしょうか。

 いいえ、いつか人前で歌うことが大きな目標になったとはいえ、具体的にいつメディアへ復帰するなどとは全然考えていませんでした。

ただ、そのきっかけをくれたのは次女の何気ないひと言でした。

2019年の12月のこと、次女から「お母さんはこのまま仕事に復帰しないで家にずっといるつもり? まだ50歳ちょっとで、この先どうするの?」と聞かれたんです。「私も悩んでいるのよ。しゃべり方がこんなんだからねえ……」

そう言うと次女は「お母さんがそのしゃべり方で恥ずかしいから表舞台には出たくないと思うんだったら、ずっと復帰しなくていいよ。でも、恥ずかしくないんだったら、ファンの人たちに安心してもらうためにも復帰したほうがいいと私は思うよ」と。その言葉を聞いてハタと気づいたのです。「あ、私、本当は恥ずかしかったんだ」って。

人前に出られなかったのは、《舌がんの人が手術をするとこうなってしまうんだと思われて、腫瘍切除という選択をしなくなったら困る》という気持ちは確かにありました。でも、一番心に引っかかっていたのは《恥ずかしいという気持ち》だったのです。前とは違う、今の自分をさらけ出すのが怖かったのです。