なぜ難しい表現をしていたのか

でもなぜ、そんなに難しい表現をするのでしょうか。

オシムさんはあえて、そういう言葉を選んでいるのだと思います。

つまり「自分の頭で考えろ」ということでしょう。考える力のない選手は、オシムさんの練習内容すら理解することはできない。

サッカーとは常に複雑な状況の変化に素早く対応していかなくてはならないスポーツだからです。そのための訓練として、「自分の頭で考える」ことがどんなに大切か、オシムさんは選手たちに教えようとしていたのではないでしょうか。

オシムさんの指導の独自性は、ユニークなトレーニング方法のあちこちに表れていました。

たとえば練習の開始時間を突然変更する。あるいは「今から30分後に試合を始める」と突如、指示を出す。

選手たちは戸惑います。十分にアップができていない、ケガしたらどうするんだ、体が温まっていないなどと文句を言う。開始時間ギリギリになってもまだウォーミングアップをしているような選手に対して、オシムさんは言いました。

「ライオンに襲われたウサギが逃げ出す時に、肉ばなれしますか?」

つまり準備が足りない、常に試合に臨める状態にせよ、スタンバイできるようになれ、ということです。ダラダラしたり、「遅れました」みたいな甘えは断じて許さない。状況に合わせて頭と心と身体を切り替えていく力、変化していく状況に対応する能力を養わせようとしていたのです。

カタール大会にて日本代表を指揮する森保監督(写真:『批判覚悟のリーダーシップ-日本サッカー協会会長秘録』より)