差別を受けたことがない

ロバート・レヴィンというアメリカ人の音楽学の教授に指導を受けたときは、「僕はアメリカ人だから、(ヨーロッパの人々に)評価されるのが難しい。君もアジア人だから尚更努力をしなければいけない」と言われたことがありました。たまたま私が出会う方に恵まれたせいなのか、世代のおかげなのか、ここ何年かでヨーロッパで本格的に活動するようになりましたが、音楽の世界で人種による差別を感じたことがありません。むしろ、ヨーロッパの友人たちが日本へ行って帰ってくると、「本当に良くしてもらっていい国だった」と感謝されることが多いです。私は、人間は人それぞれで、人種でどうこうということはないと、思える環境に生きてきました。ただ、今現在ヨーロッパの人々はウクライナがつまづいたら、次はヨーロッパだという危機感をすごく持っています。理想は理想に過ぎないと思い知らされる辛い現実も身近にはありますね。

ミラノ・スカラ座でオーケストラと演奏する藤田さん ©Filarmonica della Scala G.Hanninen

帰るなり「スクラムを組もう」という父

9月25日の国葬の日に帰国しました。日本には音が溢れているんだなぁと改めて感じます。だから嫌という訳ではなく、海外遠征から帰っても気づかなかったのが、少し長くベルリンに暮らしたら気づくことになったのが発見ですね。

父と母と兄の待つ自宅に帰ったら、父は私の顔を見るなり「4人でスクラムを組もう!」と言い出しました。本当に変わった人です(笑)。スクラムの元ネタは分からないですが、とにかく何かにすぐ感化されてしまう。医者である父はクラシックには興味がない人だったのですが、周囲にはクラシック好きが多い。「息子さんすごいね」なんて言われることがあるみたいで、今は勉強してくれています。それぞれが自由奔放な家族で、ピアノのことも両親に強制されたことはありませんでした。2つ上に兄がいますが、兄も私に似た自由人で、私より変わっていますね。私より運は悪いですけど。(笑)

私は基本的にすごく運がいいんです。例えば…ベルリンで自宅用にピアノを探していたら、今の師匠であるキリル・ゲルシュタインがちょうど引っ越しでピアノを手放そうとしていて譲っていただけたり。ミュンヘンで飛行機が遅延して、もう列車に間に合わない!という時も荷物が早めに出てきて間に合ってしまったり。海外遠征時、コンタクトレンズもメガネも忘れてしまったという時に、カバンの底から1セットだけ昔のコンタクトの残りが出てきたり。3日間使い倒したので最後は目がカッピカピになりましたけど…運がいいですね。(笑)