劇団四季時代『ライオンキング』で

限界を感じた時に声をかけてくれたのは

僕は一見、ひょうひょうとわが道を歩いているように見えるかもしれませんが、実際は全然違って。いつも悩んでいるし、何かあるたびにすごい勢いで落ち込むし、とにかく打たれ弱い(笑)。メンタルが脆弱な人間なんです。

退団も、考えに考えた末の決断でした。20歳前後の頃は勢いだけはあったので、オーディションを受ければ主役にもなれて。それで勘違いしていた部分もあったのでしょう。退団後は、芝居について思い悩むことが多くなりました。

自分へのダメ出しが止まらないと言いますか、演出家に指摘されたわけでもないのに、「もっとできるはずだろう!」と自分を追い込んでしまうんです。

なかでも精神的にキツかったのは、ミュージカル『メリー・ポピンズ』に出演していた2018年頃。思い描く自分と現実の自分とのギャップに、限界を感じてしまって。もう役者をやめようかとか、ほかに何かできることはあるだろうかとか、そんなことばかり考えていたある日、「柿澤さん、芝居しましょうよ」と声をかけてくださったのが、三谷幸喜さんでした。

僕は『メリー・ポピンズ』でハッピーに歌って踊る煙突掃除人・バートを演じていたのですが、それを見た三谷さんは「僕のシャーロック・ホームズがいた!」と思ってくださったそうで。なんと、三谷さん作・演出の舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』の主演に抜擢してくださったんです。

「バートが笑えば笑うほど泣けてくる。それが孤独や悲しみ、闇を抱えているシャーロックと重なった」というのが、キャスティングの理由だったと聞きました。三谷さんには、ニコニコしている僕がひどくかわいそうに見えたらしいんですね(笑)。「あんなに陽気な役だったのになあ……。この人はほかの人と観点が全然違うんだ」と、心底驚いたことを覚えています。

三谷さんに誘っていただいたおかげで、どん底でもがいていた自分がまた前を向くことができた。あの時の出会いが、僕のターニングポイントになったことは間違いありません。そして今回、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で3年ぶりにご一緒する機会をいただきました。常に新しい景色を見せてくださる三谷さんは、まさに僕の恩人です。