介護する側の支援は手薄
―― これって、日本の介護制度上の問題なんですか。
川内 大学で学んだ当時、「日本の介護制度は明らかに要介護者のための制度であり、ご家族が家にいて介護に携わることが前提なんだな」と思ったものです。やむを得ない面もあるし、だいぶ変わってきた部分もあります。けれど、介護の現場に立ってみると、基本線は当時と同じです。
―― 家族が介護者としてやるのが前提で、負荷がかかる状況は大きく変わってはいない。そして、家族をケアする仕組みが手薄。
川内 はい。その一方で、要介護者であるお父さん、お母さんの方から見ると、子どもたちが健康で前向きに暮らしている、ということが、精神面でやはり大きな支えになるんですね。「息子は今どうしているか」「娘は今日もちゃんと仕事に行けたのかね」ということを、認知症がかなり進んだ方がお話しになることもあります。
「ああ、やっぱり家族のことがこの方の精神的、心理的な面で、非常に大事なところを占めているんだな」と思いますし、ご家族が元気なことによって、食事が進んだり、おむつがすんなり交換できたり、といった、QOLに関わる部分が向上したりします。
―― 逆に、介護している家族が不幸せだったら?
川内 その影響は親御さんにも表れますし、不幸であると感じた家族が親を憎む、という事態にも立ち至りかねません。といいますか、そういう例は残念ながら決して少なくありません。それを見てしまったことが「介護をしているご家族も同時に支えなければ」と思った理由、でしょうか。